矯正治療に伴うリスクと限界
このようなリスクが起きたとき、我々は最善の対処をいたしますが、矯正治療はほかの全身に対する治療と同様にリスクと限界があり、矯正治療をするかしないかという決定をする際に考慮されるべきです。なぜならこれらのリスクにより、矯正治療の結果というのは保証されたものではないからです。
矯正治療そのものに関して
【痛み・違和感】装置装着初期の痛み、食事時の違和感、発音時の違和感、顎の筋肉や顎関節の違和感が出ることがあります。これらの多くは一時的で通常すぐに慣れてしまうものですが、痛みに関しては特に個人差があり、これらの不快事項が極めて強く持続する場合、治療を継続できないことがあります。
【歯根吸収】歯の移動に伴い、多かれ少なかれ起こる可能性があります。これは通常問題になることはありませんが、極端な歯根吸収が起こった場合は歯の喪失につながります。
【歯髄壊死】歯の移動に伴い、ごく稀に起こる可能性があります。壊死により歯の変色がみられることがあります。壊死を起こした歯の神経は根管処置、その後補綴処置が必要になります。
【顎関節の問題】顎の痛み・関節での雑音・開口障害・筋の緊張・めまい・頭痛・耳の痛みなどが治療中あるいは治療後に起こる可能性があります。これらの症状と矯正治療との関係ははっきりしておらず、何ら歯科的治療をしていない人でも症状の出現と消失が繰り返されるのが普通です。しかし、かみ合わせに対して特に敏感な患者様では起こりやすのかもしれません。これらの不快事項が極めて強い場合は、専門医による処置が必要になったり、矯正治療を継続できなかったりすることがあります。
矯正装置に関して
【矯正装置の誤飲】矯正治療で使用する様々な装置は精密で小さな部品から成り立っています。そのため、突発的に飲み込んだり、器官に吸い込んだりする事故を起こす可能性があります。装置がゆるんだり壊れたりした場合はすぐに連絡をしてください
【粘膜組織の炎症】歯科器材や矯正材料、矯正装置によって歯茎や頬粘膜の炎症や損傷が起きることがあります。何か変化に気づけばすぐに連絡してください
【歯へのダメージ】通常問題になることはありませんが、治療中または矯正装置除去時に歯の表面のエナメル質に細かな亀裂や傷が生じることがあります。ほとんどの場合は症状がなく治療の必要もありません。また、装置除去時は歯は研磨されており新生面が歯の表面に出て弱い状態になっています。この時期にフッ素入りの歯磨剤で歯を磨き、歯の表面を強くする手助けをしてください。エナメル成分を補給するトリートメント剤も効果的です。治療の協力度に関して
【歯肉の病気・歯の損傷】歯磨きが適切な頻度と方法でなされなかった場合、歯茎の腫れや感染・炎症などが起こりえます。これらの結果、歯のみならず、歯を支えている骨や歯茎の吸収が起こる可能性があります。特に成人では歯の移動とともに歯周組織(歯肉と歯を支える骨)が吸収することがあります。また、歯の表面の脱灰に伴い白い斑点が生じることがあります。矯正装置を付けることにより、口腔内細菌の量は3~5倍に増えるというデータがあります。このようなリスクを軽減するために、少なくとも3-4か月に1回は歯科医院での器械を使ったクリーニング(PMTC)を受けられることをおすすめします。
【治療期間の延長】治療期間は様々な理由により、私たちの予測よりも遅れることがあります。治療に対する積極的な協力は治療期間の短縮と治療結果の質の向上につながります。
予測不可能な個人のバリエーションによるもの
【顔面の成長不全】顔面の成長が思わしくいかず、顎関係が不釣り合いになる可能性があります。もし思わしくない成長による問題が大きくなると、機能的・審美的改善を得るために将来的に外科手術を伴い処置が必要になる可能性があります。
【歯の埋伏】骨の中に歯が埋伏して出てこない場合、動かすのが難しい、あるいは不可能なことがあります。このような時は外科的に歯を露出させて装置を付けて引き出すか、抜歯をして人工的な歯で補わなければならないことがあります。
【歯の修復治療】歯の大きさや形は人によって様々です。理想的な噛み合わせを得るために、歯の表面を修復した方がよいことがあります。これらの歯科的処置は一般歯科医でご相談いただくことになります。
【後戻り】移動した歯がさらに位置変化を起こすことや、もともとあった位置に戻ろうとすることはごく正常な現象です。これらの変化はしばしば矯正歯科医の力の及ばないところですが、保定装置をきちんと使うことにより、これらの思わしくない変化は減少します。また、後戻りとは別に、加齢によって歯列は変化しますので、治療結果が永久に維持されるというわけではありません。