マウスピース矯正の進化:100年の歴史と最新の「第5世代」インハウスアライナー

2025年8月に開催されたインハウスアライナー研究会が大きな反響を呼んでいます。参加した多くの歯科医師から「インハウスアライナーを始めたい」「形状記憶アライナー(シェイプメモリーアライナー)の使い方を知りたい」という声が殺到しているそうです。
今回は、マウスピース矯正(アライナー矯正)の歴史と、なぜ今「インハウスアライナー」が注目されているのかを、わかりやすく解説します。
マウスピース矯正の100年の歴史
実は、マウスピース矯正は1926年から始まっており、2026年には100年の歴史を迎えます。その進化を世代別に見てみましょう。
第1世代(1926年〜):手作業の時代
粘土のような印象材で歯型を取り、石膏模型を作成。その模型をバラバラにして手作業で動かし、プレスして作る方法でした。1回の歯型から1枚のマウスピースしか作れず、細かい歯の移動が困難だったため、「マウスピースでは歯が動かせない」と思われていました。
第2世代(1997年〜):デジタル化の始まり
アメリカのパシフィック大学で、コンピューターのCAD/CAMを使った革新的な方法が開発されました。歯型をデジタルデータ化し、コンピューター上で治療計画を立てる時代の幕開けです。これがインビザラインの始まりであり、外注型マウスピース矯正の時代が始まりました。
第3世代(2011年〜):口腔内スキャナーの登場
従来の印象材による型取りではなく、スキャナーで歯をデジタル化できるようになりました。スキャンデータを外注先の企業に送り、マウスピースを製作してもらう方式です。
第4世代(2015年〜):3Dプリンターで院内製作へ
3Dプリンター技術の進化により、クリニック内で歯型模型をプリントできるようになりました。スキャン→シミュレーション→模型プリント→プレスという流れで、再び**インハウス(院内製作)**へと戻ってきたのです。
第5世代(2019年〜):模型レス・ダイレクトプリント
2019年、グラフィー社が画期的な特許を取得。模型を作らずに、マウスピースを直接プリントする技術が登場しました。日本では2024年に認可され、本格的に普及が始まっています。
第5世代の革新性:単なる「模型レス」ではない
第5世代の真の革新性は、模型が不要になったことだけではありません。従来のプレス方式では不可能だった、自由なデザインが可能になったのです。
従来のプレス方式の限界
歯の模型にシートを温めてプレスする方式では、歯の形状にしか対応できませんでした。
ダイレクトプリントの可能性
3Dプリンターで直接造形することで、以下のような機能を追加できます:
- ウィング:顎の位置を正しく誘導
- フック:ゴムをかけるための装置
- パラタルバー:より効果的な歯の移動をサポート
つまり、デザインの自由度が飛躍的に高まり、歯の移動がより画期的に、効果的になったのです。
さらに、37℃の体温で形状記憶が復活する優れた素材により、より精密で効果的な矯正治療が可能になっています。
インハウスアライナーを始めるための3つの必須要素
研究会では、多くの歯科医師が「どうやって始めればいいのか」と質問しました。インハウスアライナーを導入するには、以下の3つが必要です。
1. 設備投資
ピザ屋の例えで考えてみましょう。冷凍ピザを温めて出すだけなら電子レンジだけで済みますが、本格的なピザを焼くなら窯が必要です。
同様に、外注型では設備は不要ですが、インハウスで製作するには3Dプリンターなどの設備投資が必須です。マウスピース矯正の専門性を高めたいクリニックには必要な投資と言えます。
2. シミュレーション技術
外注型では企業に依頼できましたが、インハウスでは自分でシミュレーションを行う必要があります。
「良い窯があっても、ピザのレシピを知らなければ作れない」のと同じです。素晴らしい素材と設備があっても、シミュレーション能力、分析力、治療計画のレベルを高める必要があります。
重要なポイント:外注型アライナーの考え方やステージングは、インハウスアライナーには通用しません。ワイヤー矯正の考え方が外注型アライナーに直接応用できないのと同様に、外注型の考え方をインハウスに持ち込んでも上手くいきません。インハウスには独自のアプローチが必要です。
3. チームビルディング
1人ですべて行うには限界があります。スタッフやテクニシャンと役割分担し、効率的に製作できる体制を整えることが重要です。
次の10年はインハウスアライナーの時代
10年前、外注型アライナーを学びたい歯科医師は多くいましたが、学べる場所はほとんどありませんでした。今では外注型の情報は豊富にあります。
そして今、次に学びたいのは間違いなくインハウスアライナーと形状記憶アライナーです。
2014年から続いてきた研究会も、2024年から外注型からインハウスアライナーの研究会へと方向転換しました。世界的に見ても、この分野が今後10年間で大きく成長すると予測されているからです。
まとめ
マウスピース矯正は100年の歴史の中で、手作業からデジタル、外注から院内製作へと進化してきました。そして今、第5世代の「ダイレクトプリント」技術により、より自由で効果的な矯正治療が可能になっています。
患者さんにとっては、より精密で快適な矯正治療を受けられる時代が到来したと言えるでしょう。歯科医師にとっては、新しい技術を学び、専門性を高める絶好の機会です。
マウスピース矯正を検討されている方は、クリニックがどのような技術や設備を持っているかも、選択の参考にしてみてください。
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